老親の奪い合い、囲い込み、使い込みと、成年後見制度

2019年4月8日


野島 梨恵弁護士 (新都心法律事務所)

今回は相続110番登録の野島 梨恵弁護士に成年後見制度についてまとめて頂きました。
成年後見制度はどのような時に利用でき、どのような効果が見込めるか具体例を挙げ解説していただきます。

よくある相続紛争

「相続」は、被相続人の死亡時から開始するが、「相続紛争」(いわゆる争族)は、被相続人の生前から熾烈である。
老いた親を巡る問題は多種多様で、兄弟間で老いて介護を要する親を押し付けあう、たらい回しにする、ということもあるが、「争族」では、兄弟間で、老いた親を「奪い合う」。
例を挙げよう。

高齢の母と同居する次女

老いた父母と次女が同居し、父は自宅で、妻と次女に看取られて亡くなり、その後母と次女が寄り添うようにして生活していた。母はもう80歳を過ぎ、認知能力に衰えが出始めていて、時々、セールスなどに騙されそうになるため、次女は母の健康だけでなく、財産管理にも気を配っていた。母の財産としては、定期預金のほか、都内の不動産が数件あり、家賃収入も大きい。

   

長女が母を強引に施設に入所させた

ところがある日突然、長女がやってきて、無理やり母を車に乗せ、印鑑と通帳もすべて持たせて家から連れ出し、、長女宅近くの施設にいれてしまった。次女が見舞いに行こうとしても、長女が頑として拒否する。

盆暮れ正月くらいは母に会いたい、会わせない。孫(次女の娘)が結婚するから、晴れ姿を見せてやりたい、いや会わせない。本人が、会いたくないと言っている。いやそんなはずはない…と、次女vs長女の小競り合いが続くうち、母は施設で亡くなった。

    

すべての遺産を長女に相続させる!?

さて、相続である。あけてびっくり、定期預金はすべて解約され、ほとんど何も残っていない。それに加えて、長女が、母の手書きの「遺言」を出してきた。それには、全ての遺産を長女に相続させる旨の記載があった…。

   

消えた母の定期預金と自宅を失う可能性

次女は驚愕する。次女の自宅も、母名義の土地の上に立っているからだ。長女が地主になるとすると、何を言ってくるかわからない。ましてや、長年一緒に暮らしていた母が、私を相続から外すなんて信じられない。そもそも、あれほどあったお母さんの預金はどうなったの?
ここで初めて、次女は弁護士に相談した。しかし、遺言はまさしく母の筆跡と印鑑。銀行の取引履歴を取り寄せてみると、預金はすべて現金化されており、使途は不明。

   

長女が母を脅して書かせた遺言書

次女には、遺言は、母が姉に脅迫されて書かされたのではないか?もしくは、もうぼけてしまって、何もわからないままに書かされたのではないか?銀行預金も、姉が母を脅して、おろさせたのではないか?と思われてならない。
しかし、弁護士には、

「お母さんが、お姉さんに脅されてやったことだって、証明できます?できなければ争っても負けますよ。」

と言われてしまう。そして、

「今できることは、遺留分減殺請求くらいですかねえ」

と言われてしまった…

  

高齢の親が拉致されるケース

このように、「高齢の親が拉致される」という事案は、実は全く珍しくない。相続人の一人である子が、親を強制的に自分の手元に置き、その金を使い込む、不動産の名義を変更させる、自分に有利な内容の遺言を書かせてしまう、などの目的のためである。

拉致されてしまう方の親は、そもそも認知能力に衰えがある場合も多い。仮に、判断能力があったとしても、「子に怒られたくない」という思いは強い。いまさら親子喧嘩をしたくない。自分が老いて、子に迷惑をかけているというひけめも感じる。そういうわけで、不満があったとしても、黙っている。自分の意思を強く主張しようという体力も気力も、もう、ないのだ。

   

証拠がないとどうすることもできない

親を「拉致された」方からすれば、作成された遺言は真意に基づくものなのか、親の認知能力の衰えにつけ込んで作成されたものではないのか、とか、預金を下ろしたのは本当に親なのか、拉致したほうの兄弟が勝手におろしたに違いない、とか、考えれば考えるほど怒りが沸き上がる。だが、いずれも証拠がない。こうなると、せっかく弁護士を入れても、闘いようがないことが多い。

 

 

成年後見制度の利用をしたほうがいいケース

✔ 認知能力の衰えた両親がいる
✔ 相続人のひとりによる親の囲い込みがある
✔ 相続人にひとりが勝手に両親の財産を使い込んでいる

このようなケースの対応としては、成年後見制度の利用を挙げることができる。
成年後見制度は、文字通り、成年、つまり大人に後見人をつける制度である。後見人が、もはや的確な判断ができない本人に代わって、その財産を管理するのだ。認知症の進んだご老人につけられることが多いが、知的な障害をお持ちの方につけられることもある。

    

認知能力が衰えると後見人が財産を管理する

本件のように、認知能力の衰えた親のカネの使い途を巡って、親族間で争いがある場合、成年後見申立を受けた裁判所は、弁護士などの専門職を後見人につけることが多い。中立な専門職が後見人として、高齢者の財産を管理することになる(なお親族間に争いがなければ、配偶者や子などの親族が後見人となることも、多々ある。)。

裁判所|成年後見関係事件の概況 平成30年1月~12月まで 成年後見人等と本人との関係について(資料10)より

財産の使い道を明確にできる

後見人は、定期的に、被後見人つまり本人の財産の使い方などを報告する。後見人が付いた後、本人の財産の使い途は、明白になる。後見人は就任すると、すぐ、本人の財産、収入などを調査し、後見人以外の人間がそれらを動かせないようにする。そして、本人の財産や収入を、どのように使っていくのか計画を立て、裁判所に「このように財産を管理していく予定です」と報告し、その後は裁判所と連絡を取りながら、本人にかわって、本人の財産を、本人のために、管理していくことになる。

 

 

後見人の費用について

この後見人の費用がどれくらいかかるのか、と心配なさる方もいるが、弁護士など専門職後見人の報酬は、裁判所が、後見人から報酬付与の申立を受けて、決定し、基本的には本人の財産の中から、支払われることになる。
そして、本人が死亡したとき(多くの場合、相続が発生したとき)、後見人の役割は終わる。その時も後見人は、財産の一覧表などを作成して、相続人にそれを引き継ぐ。なので、本人が亡くなった時に、どこにどれくらいの財産があるか、が、きわめて明確になるのである。

長野地方裁判所 成年後見人等の報酬額について の資料より

後見制度の利用で防げた母の財産の流出

本件でもし、母親が長女に連れていかれた直後、亡くなる前に、次女が後見制度の利用を申し立て、後見人がついていたらどうだったろう。その段階で、後見人以外の人間は、母親の預貯金や不動産を動かせなくなる。したがって、母の財産は、母のため以外の理由では、使われることはなかっただろう。

今回のケースの場合
1. 次女が後見制度の利用を申し立て
2. 母に後見人をつける
上記の対応により、後見人以外の人間が、母親の預貯金や不動産を動かすことを防ぐことができた。

  

このように、後見人がついた後、高齢者の財産の動きは、クリアになる。また、後見開始前に財産が流出してしまっている場合、これは完全にケースバイケースだが、裁判所と後見人が協議の上、財産を取り戻すように動くこともあり得るだろう。
後見人が入ることで、単に高齢者の財産管理を適切にし、財産を守るだけではなく、親を巡る子らの争いを、一時休戦に持ち込める可能性もある。当事者間だけではヒートアップする家族の問題は、第三者が入ることで、沈静化することもある。

制度活用による効果
✔ 財産の動きをクリアにし財産を守る
✔ 財産の種類・内容・所在を明確にできる
✔  第三者の介入により争族を沈静化する

   

財産を正しく守るために

高齢者の多くは、何十年もの長きにわたって、家族のために働き、この社会を支え、その対価としての財産を築いてきたひとたちである。何をして稼ぎ、それを何に使うか、というのはその人の人生そのものである。高齢者の尊厳は、高齢者の財産の尊厳でもある。それが踏みにじられる事態を看過するようでは、わが国の将来はおぼつかない。高齢者が食い物にされることを防ぎ、その財産を正しく守ることは、急務である。そのためにも、成年後見制度は、ぜひ、活用していただきたい制度である。

   

大手の渉外事務所に4年間勤務し、一般民事事件の経験を積んだ後、北海道士別市で法律事務所を開業。野島梨恵弁護士が経験してきた様々な事件の10のエピソードが綴られています。本書では野島梨恵弁護士が高齢者の財産管理や人権擁護に注意を払うきっかけになったエピソードも綴られています。

私の愛すべき依頼者たち~10のエピソード
著者:野島梨恵
発行者:井田隆
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