経営者と後継者、事業承継における生前対策とリスクとは?

2017年4月17日


自分で会社を経営されている方や、親族内に経営者がいる方にとって事業承継はとても身近なことだと思いますが、事業承継は会社員として働く方にも決して遠い話ではありません。経営者が変わることで経営方針や社員への待遇だけでなく、取引先にまで影響してきます。自分が死んだら親族の誰かが引き継いでくれるだろうと高を括っていては大変なことになってしまうので、事前の対策が必要です。

事業承継については、全て説明するとなると大変膨大な情報となり本が1冊書けるほどですので、本コラムでは掻い摘んで大枠の概要とリスクについて解説します。

事業承継の現状

全国には中小企業が約430万社以上あり、年間約29万社が廃業している中で約7万社は後継者不足などが原因で事業承継できなかったために廃業した企業という統計があります。後継者不足の理由においては、少子化で親族内に後継者となる人がいない場合や、親族が承継したくないと拒否する場合などさまざまです。

そもそも、事業承継とは?

事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことです。とくに中小企業にとっては、オーナーや社長の経営手腕が存立基盤と直結している場合が多いので、後継者を誰にするかというところが、大変重要になってきます。

一言で事業承継といいますが、事業承継にとって大事なポイントは「①現状の把握・分析」をして「②いつ」「③誰に」「④何を」「⑤どうやって」承継するかということです。

 

①現状の把握と分析

会社の現状として資産状況、キャッシュフロー、収益と今後の見込み、役員や従業員の構成など会社の数字だけでなく、経営者自身の現状、後継者の現状などを客観的に把握しなければなりません。それらを総合的にみて、今後の事業計画を考えなければならないのです。事業計画を考えるにあたっては、事業承継した後もその会社が付加価値を創出し続けることができ、利益を出し続けることができる会社かどうかも考える必要があり、場合によっては経営の見直しも検討する必要があります。

 

②いつ事業を引き継ぐのか?

目標を決めて生前に引き継いで余生を楽しむのか、目の黒いうちはご自身で会社を守り死後に引き継いでもらうのか、まずは、それぞれの事業計画と経営者のライフプランを併せて、承継計画を考えていくことが大切です。事業承継の引継ぎは10年計画とも言われており、余裕を持った承継計画を立てておくことをおすすめします。

 

③誰に引き継ぐのか?

事業を引き継ぐ相手としては主に「親族に引き継ぐ」「親族外の役員・従業員に引き継ぐ」「外部の人に引き継ぐ」の3通りとなります。親族や役員、従業員に引き継ぐ場合は、後継者教育もしなければならないので、②でも述べたとおりかなりの時間が必要になります。また、息子や娘が継いでくれるだろうと自分の中で思っていても、当の本人には継ぐ気が無く事業承継が上手く運ばないこともあるので、親族内での承継を考えている方は、後継者となる親族とは必ずお互いの意思確認をすることをおすすめします。親族や社内にも後継者となる人がいない場合は、廃業と考える方もいるかと思いますが、M&AやIPOなどによる外部への譲渡の検討や、事業引継ぎセンター、後継者人材バンクなどの支援機構へ相談してみてはいかがでしょうか。

また、現在ではM&Aの仲介・アドバイザーをしている企業もあります。省庁の相談窓口ではないので費用はかかりますが、こういった企業は大変幅広いネットワークの中から理念や事業計画に合った相手を探すことができ、様々なノウハウを蓄積している企業もあるので専門的なことでも的確なアドバイスを受けることができるというメリットもあります。

株式会社ストライク

株式会社日本M&Aセンター

青山アカウンティングアドバイザリー株式会社

アクタスアドバイザリー株式会社

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

■中小企業基盤整備機構「事業引継ぎ支援センター

 

④何を引き継いでもらうのか?

事業承継は後継者を決めておくだけでいいわけではありません。事業承継で引き継ぐものには株式と経営権があります。株式を引き継ぐことを「所有承継」、経営権を引き継ぐことを「経営承継」といいます。経営承継(経営権を引き継ぐ)とは会社の代表(社長)となり、会社を運営していくことと想像しやすいと思います。所有承継(株式を引き継ぐ)とは、その会社の株主となり議決権を行使できるということなので、持株の割合が多ければ多いほど発言権が強くなります。また、M&Aでもこの部分は同じで、株式譲渡・事業譲渡の両方もしくはいずれかの一部又は全部の譲渡が可能です。株式の保有割合による議決権については表にまとめていますので、ご参考までにご覧ください。

また、この経営権と株式は引き継ぐ相手や組み合わせ、割合によっては、トラブルを招く恐れがあります。たとえば経営者の死後、株式は親族が引き継ぎ、経営権は親族外の役員が引き継いだとします。株式を引き継いだ親族と、株式を所有していない経営権を引き継いだ役員との間に確執が生じ、両者の間に大きな溝ができてしまい、従業員が翻弄されてしまうこともあるのです。

このようなことにならないためにも、誰に何を引き継いでもらうかも大切ですが、それぞれと会社の理念や自分の想いを伝えておくことも大切になってきます。

 

⑤どうやって引き継ぐのか?

後継者がおらず外部の人・企業へ承継する場合は、基本的に譲渡という形になるかと思いますが、後継者と引き継いでもらうものが決まった方は、その後継者にそれらを譲渡するのか、または贈与するのかも決めなければなりません。

 

事業承継に伴うリスクと対策とは?

後継者に財産や株式を譲渡する場合、後継者には相続税や贈与税がかかってきます。事業承継で懸念される点で借金が一番に思いつきますが、会社が順調であっても問題は生じます。

事業承継する際に一番の問題となるのが、後継者の資金不足です。事業承継には事業用資産や株式を買い取るための資金や事業用資産や株式を承継した際に発生する相続税・贈与税を納税するための資金、また、旧経営者の遺族への遺留分を支払うための資金が主に必要といわれています。

後継者が決まっていざ引き継いでもらうことになったとしても、経営が順調すぎて株式の買取り資金や贈与税、相続税が莫大な金額になり払えず、後継者が引き継げなくなることがあります。オーナー経営者の場合、自社株の大部分をオーナーが所有していることが多いので、このようなことに陥りやすくなります。また、事業承継直後の後継者は融資が受けにくいため、このようなことが起こらないように、資金については生前から対策をしておかなければなりません。

 

現経営者の生前対策

生前の対策としては後継者を受取人として生命保険で資金の準備しておくことや、贈与税や相続税が一度に降りかかってこないようにするために、生前に分割して株式の贈与・譲渡をおこなっていくことも手段の一つです。

遺留分の請求をできる権利者全員との間で承継の対象となる事業用財産・株式を遺留分の計算から除くという合意をすることもできますが、後継者は経済産業大臣の確認や家庭裁判所の許可が必要となります。

また、旧役員への退職金支払いや分社化、信託による後継者指名、不動産の取得など株価引き下げによる相続・贈与の税金対策、議決権のない種類株式を発行することによる相続発生時の相続人間の対立防止、従業員持ち株会などによる一族以外の安定株をつくっておくことも大切です。

 

後継者になった方の資金対応策

中小企業の事業承継では、承継直後は後継者の社会的信用が低いので金融機関から融資を受けるのが大変難しいといわれています。後継者自身に元々潤沢な資金がある場合や、旧経営者が生前対策を講じて資金が手元にある場合は何も問題はありませんが、急な事業承継で手元に資金がないこともあります。どのような対応策があるのでしょうか?

対応策①納税猶予の特例を受ける

事業承継税制では上場していない中小企業の株式については、相続税・贈与税の納税猶予の特例が設けられており、後継者が旧経営者の親族でなくても適用されます(平成27年1月以降)。贈与税・相続税の納税猶予の特例が適用されるためには会社・先代経営者・経営後継者それぞれに条件が定められており、納税猶予を継続するためにも多くの条件をクリアする必要があります。

国税庁HP→No.4439非上場株式等についての贈与税の納税猶予

国税庁HP→No.4148非上場株式等についての相続税の納税猶予の特例

 

対応策②中小企業信用保険法の特例で融資を受ける

中小企業信用保険法の特例とは、事業承継に必要な資金を金融機関等から融資してもらう場合に限り、経済産業大臣の認定を受けた企業は信用保証協会の通常の保証とは別枠で設けられた保証を受けられる特例の支援措置です。内容としては、中小企業信用保険法に規定されている普通保険(限度額2億円)と別枠で無担保保険(限度額8,000万円)、特別小口保険(限度額1,250万円)が融資してもらえるものです。

中小企業庁PDF→中小企業信用保険法の特例

 

対応策③金融公庫法の特例で融資を受ける

経済産業大臣の認定を受けた企業の代表者は株式会社日本政策金融公庫法、沖縄振興開発金融公庫法の特例により、後継者個人が通常の金利より特別に低い金利で融資を受けられるものです。詳細については各窓口へお問合せください。

株式会社日本政策金融公庫

沖縄振興開発金融公庫

中小企業庁HP→財務サポート「事業承継」

それぞれメリットもありますが、使い方によってはデメリットもあるので、専門家とよく相談しながら利用してください。また、②と③においては経済産業大臣の認定を受けるにもハードルが多いですが、受けたからといって必ず受けられる特例ではありません。

 

事業承継はどんな形であれ、いつか必ず訪れる問題であり、経営者にとっても後継者にとっても大変大切な作業になります。重要だとわかっていても、目の前にある緊急度の高い問題にかき消され、後回しになりがちなことがこの事業承継なのです。早く決めておくことで、後継者にとっても、会社全体にとっても、もちろん経営者であるご自身にとってもいいタイミングで引き継ぐことができるので、ぜひ早めの準備をご検討ください。また、事業承継は専門家と相談しながら進めることを推奨します。

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